福岡地方裁判所 昭和44年(ワ)1636号 判決
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〔判決理由〕一、被告が肩書地に本店を有し、従業員約八〇名を使用して木工、家具の製作および室内装備等を営むものであり、原告鴨川が昭和二九年四月、原告永井が昭和三四年七月それぞれ被告会社の前身である玉屋製作所に家具組立工として雇われ、それ以来被告会社の従業員として勤務していたこと、原告らが被告の許可なく同業のサン装備に就労したところ、被告がこれをもつて、被告会社就業規則七二条一二号の懲戒解雇事由たる「九条一号(許可なく他に就業しないこと)に違反したとき」に該当するとして、昭和四三年四月二四日、原告らに対し懲戒解雇する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。
二、そこで、右懲戒解雇の当否について判断する。
(一) 就業規則七二条一二号、九条一号該当性
(1) まず、右就業規則七二条一二号、九条一号の趣旨について考えるに、就業規則九条一号において「他への就業」が禁止されているのは、従業員が他へ就労することによつて会社の企業秩序ないし労務の統制を乱し、またはそのおそれがあるか、あるいは、従業員の会社に対する労務提供が不能もしくは困難となり、企業の生産性の高揚を阻害することを未然に防止することにあると解されるから、会社の企業秩序または労務の統制を乱すおそれがなく、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは、就業禁止の対象とはならないものと解される。
(2) そこで、本件における他社就労が果して右就業規則にいう「他への就業」に該当するか否かについて検討する。
<証拠>によれば、次の事実が認められる。
(イ) 被告会社は、昭和三五、六年頃から赤字決算が続き、昭和四二年一一月の決算時には一、二〇〇万円の赤字を計上し、倒産のおそれさえあつたので、これを解消して会社を再建すべく、その方策として、翌四三年一月二九日、被告会社代表者田中庫喜は、全従業員に対し、従来から実施していた時間外労働および休日労働を廃止して、長時間労働による従業員の肉的体疲労度を軽減し、就業時間内の作業能率の向上を図り、かつその実態調査を実施すること、時間外労働および休日労働の廃止に伴う従業員の賃金低下を防止するため、各従業員の昭和四二年一〇月から同年一二月までの過去三か月間の時間外労働手当および休日労働手当の合計額の月当り平均額(以下これを特別加算金という。)を毎月従業員に支給することの趣旨説明を行ない、右措置(以下これを特別措置という。)を昭和四三年二月一日から実施するから協力して貫いたい旨通告し、さらに同日、原告らを含めた七名の所属する総評全国一般労働組合福岡地方本部福岡支部(以下「全国一般労組福岡支部」または「組合」という。)玉屋製作所分会(以下「分会」ともいう。)と、従業員二〇数名の所属する企業内組合にもその旨通告した。
(ロ) 同月三一日、右措置につき組合との間に団体交渉がもたれて会社側よりその趣旨が説明されたが、組合は前記の措置は労働条件の重要な変更であり、慎重に検討すべきであると主張して、二月一日からの実施に反したが、従業員数の多い企業内組合が被告会社の右提案を了承し、右措置が予定どおりに実施されたため、結局、組合も右措置の実施を了承せざるを得なくなり、その後は主として、特別加算金の配分問題について団体交渉がもたれ、同月一七日に至り、すべて被告会社の提案どおりに実施することの口頭による了解ができたので、被告会社は二月分より全従業員に対し、被告会社が提案したとおりの特別加算金(一人当り平均九、三〇〇円)を支給した。
(ハ) 組合は、前記一月三一日の団体交渉が終つた時点で、被告会社に対し、一律一六、〇〇〇円の賃金引上げその他の要求書を提出し、その後同年四月八日までの間、約一〇回にわたつて賃金引上げ問題につき団体交渉が行なわれた。
(ニ) 同年三月に入つて、被告会社の庶務・労務係和田正美は、原告らの職場である第一工場等で、特別措置中に他社に就労しているものが数名あるとの従業員の噂を二、三度耳にしたので、同月中旬頃、取締役兼業務部長西正義にその旨報告したところ、直ちに調査をするよう命ぜられたので、和田庶務・労務係らは再度にわたつて同業者関係を調査したが、ついに確認することができなかつた。
(ホ) 西取締役兼業務部長は、同年三月二一日、原告らの直接の監督者である第一工場生産課長前田義美より、原告らの出勤状況や勤務状態が非常に悪く、他社就労の懸念があると聞き、また出勤表により、原告らの出勤状況の悪いことを確認したので、翌二二日、被告会社と組合との賃金引上げについての団体交渉の席上、原告らの他社就労の有無を確めたところ、原告らがサン装備株式会社(以下「サン装備」という。)で就労していることを認めたので、原告らに対し無許可の他社労働は就業規則で禁じられているので、調査してはつきりすれば処分する旨警告した。
なお、サン装備は福岡市内で室内装飾業を営む競争会社であり、取締役社長香月広は、被告会社の元従業員で昭和四〇年九月一一日、業務に関し不正行為があつたとして解雇されたものであり、従業員数は約四〇名で、そのうち数名は被告会社の元従業員であつたものである。
(ヘ) また同年四月四日、被告会社は分会長城野悟および企業内組合委員長荒武忠義に対し、許可なく他に就業することを禁止した就業規則九条一号に違反しないこと、もし違反した場合は懲戒解雇に処する旨の達示書(乙第二号証の一)を手交するとともに、同趣旨の文書を被告会社の掲示板に掲示し、全従業員社対し、周知徹底を図つた。
(ト) さらに同月一一日、被告会社は組合に対し、平均日給男子一二二円(月額三、一七二円)女子二九円(月額七五四円)の賃金引上げを回答したところ、組合は、その額が組合の譲歩額一万円をはるかに下回るところから、分会書記長大江敏夫が、被告会社がそのような低額の回答しかしないなら、組合員に他社就労を勧める旨発言したところ、会社側はこれに対し、許可なく他社就労したものは厳重に処分する旨きびしく警告した。なお、同月一七日被告会社は企業内組合に対しても同額の賃金引上げを回答した。
(チ) 同月一八日、被告会社と組合との間で賃金引上げについての団体交渉が行なわれたが、結局双方とも相譲らず交渉は決裂した。またその席上、被告会社は同月二五日をもつて特別措置を廃止する旨組合に通告した。なお同通告は、企業内組合に対しては、同月七日に団体交渉の席上、被告会社より通告された。
(リ) 組合は同月二三日被告会社に対して、前記賃金引上げの回答を不満として「二三日以降適法に許されたあらゆる方法による実力行使を随時随所において行なう。」旨記載した書面(甲第一号証)を手交して、争議の通告を行なつた。
また、同日午後六時頃当時の被告会社代表者田中庫喜は和田庶務・労務係から、同社の若手見習工に対し、サン装備から引き抜きの手が伸びていることを知らされ、以前にも数名(約八名)の者が引き抜かれているので、同社に抗議するとともに、協力を要請するために、同日午後七時三〇分頃、西取締役兼業務部長を伴い、和田庶務・労務係に案内させて、福岡市今泉にあるサン装備の工場に赴いたところ、同工場において原告らが就労しているのを目撃した。田中代表取締役および西取締役兼業務部長は、同工場長香月清に面接して、従業員の引き抜や他社就労の件につき抗議するとともに、今後の協力を要請したが、その際の同人の話では、今まで、原告らのほかには被告会社の従業員は来ていないとのことであつた。
(ヌ) 同年四月二四日午前九時過ぎ、田中代表取締役は、原告らを応接室に呼び事情を聴取したところ、従前にも数回いつていることを認めたので、懲戒解雇を申し渡し、原告らに懲戒解雇通知書を手交しようとしたところ、原告らは「他にも行つている人がいる。」「城野分会長の許可を得ているので、同分会長に渡して貰いたい。」などと申し向けて受取らず、同日は終業時刻である午後五時まで就労した。また被告会社は同月二五日限り特別措置を解除した。
(ル) なお、原告らがサン装備に就労した日および時間は、各同年三月一八日に三時間、同月二〇日に三時間、同月二三日に三時間三〇分、同月二五日に三時間、同月二七日に三時間、同月二九日に二時間三〇分および同年四月二三日に三時間であつて、一時間当りの賃金はいずれも四〇〇円であつた。
なお、右就労日のうち三月一八日と同月二五日は原告永井が欠勤した日であり、また同月二三日は原告鴨川が年次有給休暇をとつた日であつて、これらの日の就労時間が被告会社の就業時間内のものであるか否かは判然しないが、その余の前記就労日の就労時間は、いずれも被告会社の就業時間終了後の午後六時頃からのものである。
以上の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。<証拠判断略>
以上認定の事実によれば、被告会社の実施した特別措置の目的は、従業員の長時間労働による肉体的疲労度を軽減し、就業時間中の作業能率を向上し、かつその実態調査を試みることにあり、それは一応合理的なものといえるから、これが実施を了承し、特別加算金の支給を受ける者は、その措置中は特に自己または他の従業員の作業能率や意欲を低下せしめるような言動を慎しむべき忠実義務があるのに、原告らは再三にわたる会社側の警告を無視し、許可なく他に就労して、就業の規律を乱し、職場内に他社就労の噂を生ぜしめて、他の商業員の作業意欲を減退せしめる等企業に好ましからざる影響を与えたものと推認するに十分である。
そうだとすると、原告の他社就労は被告会社の労務の統制を乱したものというべききあるから、就業規則に禁止する「他への就業」に該当するものといわねばならない。<後略>
(鍬守正一 宇佐美隆男 大石一宣)